2016年12月19日にWBSで紹介されていた内容です。新しいがん治療薬と聞くと、気になります。

NECが創薬事業に参入

NECは人工知能技術を活用してがん治療薬を開発する事業に参入することを発表しました。それに伴い、食道癌などの治療に効果が期待できるペプチドワクチンを初めて公開しました。

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ペプチドとは何でしょう?富山大学の先生が書いた「アミノ酸・ペプチド・タンパク質:生命を支える主役たち 」というレポートを見つけました。ざっくり言ってしまえば「アミノ酸がいくつかくっついたものがペプチド。アミノ酸がたくさんくっついたものがタンパク質」ということです。レポートの一部分を引用しておきます。

7.アミノ酸とアミノ酸がくっついてペプチドへ
1 分子のアミノ酸のアミノ基ともう 1 分子のアミノ酸のカルボキシ基が反応して結合すると、ペプチドができます。このとき、1 分子の水が飛び出すことから、この反応を脱水縮合(だっすいしゅくごう)といいます。同じ反応が次のアミノ酸でも起これば、いくつものアミノ酸が繋がったペプチドができます。

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NEC が設立した新会社サイトリミック 土肥俊社長
「日本人の場合85%の人に一個のペプチドで免疫誘導できる。このペプチドは我々の知る限り、他の機関では見つけられていません。これは AI あっての発見です。」

NECは山口大学・高知大学との共同研究で、人工知能技術を使って肝細胞がんや食道がんなどの治療に効果が期待できるペプチドワクチンの開発に成功しました。
(画面)
「投与用ペプチド溶液」1回の皮下注射で投与する分量となるよう、あらかじめ溶解、分注されたペプチド溶液
「アジュバント」ペプチドとともに投与するアジュバント溶液。ペプチドとアジュバントをあらかじめ混和し皮下注射する。

NECが目指すがん治療法は免疫治療と呼ばれるもので、ペプチドワクチンを体内に注射することで、がん細胞を攻撃する免疫細胞を活性化させるというものです。

免疫細胞を活性化させるペプチドを探すのに5,000億通りのアミノ酸の配列の中から見つけなければならず、これまでは年単位での時間と労力がかかっていましたが人工知能技術により、数ヶ月に短縮できたといいます。

NECはがん治療用ワクチンの開発と実用化を推進する新会社を設立し、創薬事業に本格参入していきます。

山口大学学長 岡正郎博士
「いやー、(人工知能には)驚きですよ。診断から治療薬開発などすべてに(人工知能が)入ってくるので、医療のあり方が変わってくるような気がします。」

画像=今回発見たペプチド
・YNV-001: HSP70ペプチド
・YNV-002: GPC3ペプチド

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AIという言葉も最近よく聞くようになりました。人工知能技術の事。囲碁の世界でもコンピューターがAIによってプロ棋士を破るようになってきました。頼りになるような、恐ろしいような。とにかく各分野での活用の可能性は広がっています。
IT用語辞典 e-worksから引用します。

人工知能とは、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステム。具体的には、人間の使う自然言語を理解したり、論理的な推論を行ったり、経験から学習したりするコンピュータプログラムなどのことをいう。人工知能の応用例としては、専門家の問題解決技法を模倣するエキスパートシステムや、翻訳を自動的に行う機械翻訳システム、画像や音声の意味を理解する画像理解システム、音声理解システムなどがある。人工知能を記述するのに適したプログラミング言語としてLispやPrologなどが知られている。

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ゲストによる解説

ゲストは市川眞一氏。(クレディ・スイス証券チーフ・マーケット・ストラテジスト)

—–人工知能によって薬の作り方もこれまでとは大きく変わっていく?—–

テロップ「新薬ができるまで」
【新たな物質の発見】→【薬の開発】→【臨床試験】→【製造】

市川「(人工知能が使われようになってきたのには)二つの大きな理由があるんじゃないかと思います。
一つは、処理すべきデータが大量になってきているということ。

薬ができるまでというプロセス四つを出していただいているんですけど、実は【新たな物質の発見】の前に、どういうところにターゲットを絞るかというターゲッティングがあるんです。従来はその時に、臨床研究と疫学的調査というものがあって、そこで、ターゲットを絞るということだったんですけれど、それに、人間個々の遺伝子情報が入ってきますから、そうするとデータの量が飛躍的に増えていきます。

【新たな物質の発見】についても、薬を一つ作る時には、新たな化合物が平均的に言うと、10837。 10837分の1の確率で新薬は生まれてくるということですので、逆に言えば、それだけ化合物のデータが蓄積されていると言うこと。それだけのデータを処理する必要があるということ。

二つ目には、製薬会社間の競争がどんどん激しくなってきているので、一つの新薬を開発するのに約10年、そして200億~300億の投資が必要だと言われていましたけれど、そこで競争が激しくなってくると、どうやって期間を短縮してコストを削減するか、そういったところで人工知能が入ってくる余地が出てきてるんだと思いますね。

—–今回NEC が参入するのは【新たな物質の発見】の部分。人工知能によって、異業種でも入り込める分野になってくるのか?—–
市川 「特にこの AIが入ってくるということは、その AI の取り扱いに慣れている人、解析に慣れている人たちが入ってくるということになりますし、そうなってくるとデータにアクセスして来て人工知能が使えれば、ベンチャーの人たちにも画期的な”新薬の元”を作ることができるということになるかもしれない。そうなると製薬業界全体が分業化という方向に進んでいく可能性も十分にあると思いますね。」

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いつかは自分も「がん」になるかもしれないという思いは常にあります。なので、「がん治療薬」の話題にはすぐに反応してしまいます。手術とか放射線治療はなんだかダメージが大きそうな気がして、いい薬があればいいなと漠然と思います。

がん治療薬は直接命に係わるもので、大きな金が絡んでいること、実用化まで時間がかかることは想像していましたが、実際に創薬には200億から300億の金と10年の歳月が費用ということで、ため息が出ました。

科学技術で「いい薬」へのハードルを下げることが出来ればいいなと、切に思いました。NECがんばれ。ベンチャーもがんばれ。